【本】『太陽を創った少年』

14歳で核融合炉を自作した(!!)天才児(ギフテッド)テイラー・ウィルソンと、彼の家族や協力者・メンターたちの物語。量子物理学のノンフィクション。

 

テイラーが科学・社交性の両面に置いてギフテッドであることもさることながら、そんな彼がウィルソン家に生まれたという巡り合わせがすごい。

 

両親の育児方針は、「子どもたちが自分らしさに気づけるようにすること、そして彼らがその自分らしさを伸ばせるよう、できるかぎりのことをすること」というもの。

 

危険な研究に興味を持ったときも禁止するのではなく、「信じよ、されど確認せよ」の精神で機会を与える。
自分たちの理解を超えたときは、人脈を辿ってメンターと引き合わる。
子どもの教育のために、仕事と家を変え、アメリカの東から西へと引っ越す。
危険な結果になりかねない情熱を実現し、サポートするために、 安全で創造的なあり方を見つけ出す。

 

彼らのアプローチは-はじめは手探りで、途中からは意図的に選択した-、並大抵の親ができることではない。

自宅の庭で盛大な花火を打ち上げたり、ロケットを打ち上げたり、自宅ガレージに放射性物質をコレクションしたり、あげく核融合炉を作り始めたり…。少なくとも私は発狂しそうだ。

 

だが、両親が施してくれた、ギフテッドにとって理想的な教育も一助となり、テイラーは14歳での核融合達成という偉業を成し遂げ、さらなる高みを目指して羽ばたき続けている。

危険な分野への好奇心を親に禁じられ、裏庭の小屋で一人で増殖炉を作ろうとして危うく大惨事を起こしかけたデイヴィッド・ハーンの暗い人生とは対照的だ。

 

テイラーの高まる名声の陰で、早熟な彼に振り回されたウィルソン一家の苦難-両親の疲弊。兄の影に隠れたもう一人の天才である弟・ジョーイの苦しみ(テイラーには早く自立してほしい、「早くジョーイに集中したい」という両親の言葉は痛切)を考えると、「なるほど、我が家もウィルソン家流でいこう」と単純には思えない。

だが、油断するとすぐに「ヘリコプターペアレンツ」-ヘリコプターのように子どもの上空を飛び回って、やることなすこと全てに口を出す-となりがちな自分にとっては、ウィルソン家の子育ては、自分を戒め、「行きすぎ」を防ぐのに役立つと感じた。

まずは子どもたちに自分のヘリコプターを操縦させ、その上で、子どもたちがその世界を探検したり、広げたりするのに役立つ材料を持って後から乗り込むのだ。


ギフテッド教育、親と子どもとの向き合い方、物理学への誘いなど読み応えたっぷりな良書。

とにかく分厚く、科学の読み物を読み慣れていないと辛い部分もあるが、腰を据えて読んで良かった。

 

最後に、本書を通して得た、自分自身の育児への教訓をまとめておく。


① 子供が幼い頃に普通とは違った様々な場面を体験させる

  →無理のない範囲にはなるが、土日や平日休みの時にいろいろな場所に連れていく
  →様々な場所で情報を集め、彼・彼女らの興味を引き出す


② 子育ての代替物に頼りすぎず、
自分の子供やその興味の対象に時間と労力をそそぐ
  →習い事を詰め込むより、週末に一緒に工作したり出掛けたり経験したりする時間を大切にしよう
   (ただし、私自身がやりたいことを抑圧し過ぎない範囲で)

③ 成長型マインドセットを身につけるため、 成功そのものではなく 子供の強みや成功のためにしたことをに注目し褒める
  →普段の声がけを「できたね、すごい」と結果を褒めるのではなく、「○○を工夫しているところが良いね」「いいところに気が付いたね」などプロセスに着目して具体的に褒める(これは「学力の経済学」でも触れられていたが)

④ギフテッドの才能開花は運に左右される。すべてのギフテッドが才能を開花させ、幸せに生きられるわけではない

  →親は気負いすぎない(すべてをコントロールできるわけではないし、そのために心血を注ぎすぎてもお互い辛い(自分の子どもがギフテッドというほどの才能があるとは思っていないが…)


⑤自分の手に負えなかったら、専門家の支援を仰ぐ

  →分からないから禁止する、ではなく、適切な助言者を引き合わせる。メンターを見つける手助けをする(仕事の基本姿勢とも通じる)

 

⑥ギフテッドがぶつかる壁の一つが学校。環境を整える

  →子どもが多感な時期に情熱と才能を発揮できるよう、子どもの特性によっては中学受験をさせる(中学受験へのあこがれが強すぎるかもしれないが、できる限り、周囲と合わせるのに消耗する空間ではなく、のびのび知性を発揮できる環境を与えたい。世帯年収的に厳しいので、公立中高一貫校の受験しか選択肢はないかもしれないが…)